3Dプリントカーボン材でアルミ並みに強いパーツを作る!

皆さんこんにちは!
3D Printing Corporationの古賀です。

今回は、3Dプリントしたカーボン材と従来工法のアルミ材を比較して3Dプリントカーボンの実力を確かめていこうと思います。

本記事は前後半に別れており、前半では1と2、後半では3と4を扱います。

1.3Dプリント vs ホームセンター
2.3Dプリント vs 従来加工技術
3.3Dプリントでアプリケーション開発
4.まとめ

1では、3Dプリントの天敵、ホームセンターで売られているシンプルな部品と3Dプリントという禁断の比較をします。私の3Dプリント活用の合言葉「ホームセンターで売ってるものはホームセンターで調達しましょう」に正面から挑みます。相手はホームセンター最強のアイテム、アルミパイプです。

2では、3Dプリントと比較されがちな切削や板金などの加工法と3Dプリントを比較してみます。3Dプリントしたカーボン材と従来工法のアルミ材にとって得意不得意が出にくいパーツを作る際に、どのような違いが出るかを比較していきます。

3では、3Dプリントカーボン材を用いたアプリケーション開発の例として、3Dプリントでカーボン製のL字ジョイントの設計製作をしてみます。従来工法で設計製作する場合と比較しながら、3Dプリントカーボン材の良さを見ていきます。

今回想定している読者さんは以下です。当てはまった方はぜひ最後までお楽しみください!

・プラスチック3Dプリンターを常用しているが強度不足を感じている方

・普段からアルミ材と切削を多用しているが作業時製作間やリソースの不足を感じている方

・日々の試作開発を加速したい方

・製造外注に不満がある方

また、専門的な内容についてはコラムにまとめて紹介するような形式を取ります。コラムを飛ばしてもOKなように構成しています。背景や専門用語が気になる方は、ぜひコラムもご一読ください。

Column0. 製図の授業の悪夢と3DCAD*の訓練時間

多くの3DCAD食わず嫌いな人たちがしている3DCADの習熟難易度の勘違いについて短めに解説します。製図は覚えることが多く、空間認識能力が必要。3DCADはその両方が不要。「○○の作業をするときには△△のボタンを押す」という訓練が必要なだけです。専門知識が不要になったことで、アメリカでは小学生が3DCADを学習するようになっています。製図を勉強した人なら、間違いなく3DCADは使えるようになりますし、使いこなすまでの訓練時間は製図の時より圧倒的に短くなるはずです。

1. 3DCADとは、3次元形状の設計図が書かれたデジタルデータまたは編集ソフトのことを指します。3Dプリンターを運用するためには3DCADデータが必要です。自ら編集ソフトを使って設計するか、3DCADを提供しているオンラインサイトでダウンロードすることで、3DCADデータを用意することができます。

1.3DP vs ホームセンター

3Dプリントの天敵、ホームセンターで売られているシンプルな部品と3Dプリントという禁断の比較をします。比較相手はホームセンター最強のアイテム、アルミパイプです。

アルミパイプは、最もなじみ深い素材の1つでしょう。軽量で加工しやすく、プラスチックと比較して非常に強い素材です。引抜成型という素晴らしい相性の製造技術に恵まれ、安価に供給されています。アルミ材を使える場面なら、第一に候補となる優秀な素材です。

一方で、規格品の宿命として、規格品に合わせた設計が求められることや自分が欲しいサイズへの加工に手間がかかることがボトルネックです。

さて、今度はアルミパイプと同等の外形寸法・軽さ・変形しにくさを持つパイプ材を3Dプリンターとカーボン材料で作ってみましょう。対象は厚さ1mm一辺10mmのアルミ角パイプ、使う3DプリンターはMarkForged社製MarkTwoです。

MarkForged社製MarkTwo

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さて計算が終わりました。計算過程は省きますが、同等の軽さと変形しにくさで設計すると、寸法は厚さ2mm一辺10mm(長さ100mm)になります。簡単な形状なので、すぐに3DCADを起こせますね!3DCADを起こしてすぐさま3Dプリント開始です。

厚さ2mm1辺10mm長さ100mmの3Dプリントカーボンパイプ
造形時間 01h06m 重量4.08g 1176円

1時間後、あっという間に完成です。時間を比較するとホームセンターに行って帰ってくるだけで1時間はかかる(当社比)ので、3Dプリンターの方がスピーディです。また、人間の手間時間でいうとさらに短いです。

コストで比較すると、3Dプリントが1176円と一見して3Dプリンターが高いように見えますが、ホームセンターで買うにせよ内製するにせよ、人件費がかかるので、1時間1000円で計算しても実質的なコストはあまり変わらないです。ただし、実費だけで見ればホームセンター様様です。

性能面を比較してみると、曲げ剛性(曲げに対する変形しにくさ)がアルミ33.8N/m2に対して3Dプリントカーボンが30.9N/m2で8.4%ほどアルミより低いものの、重量はアルミ5.13gに対して3Dプリントカーボンが4.08gと20.5%軽く、比曲げ剛性(重量あたりの曲げ強度)では15.0%アルミパイプより高いため、アルミパイプよりも軽量化のポテンシャルが高いと言えます。ただし、高熱などの環境では、カーボン材はプラスチックをベースにしているためどうしてもアルミに劣ります。

 

実際に、先端から5-10mmのところに7.7㎏の錘を吊るしたところ、図のように、パーツの見かけ上のたわみはほとんどなく、計算上のたわみ量(0.4mm)と比較しても妥当な結果が得られました。錘には、現在売り出し中の金属3DプリンターMeltioで造形したステンレス製のパーツとビルドプレートを使用しています。

Point

〇短時間で調達・加工手間は数分

〇人件費を含めるとコストはアルミパイプと同等

〇金属のアルミ並みの性能(軽量化ポテンシャルは3Dプリントカーボンの方が高い)

△実費で比較するとアルミパイプが安い

△耐熱などの特性は金属に劣る

Column1.カーボン材・プラスチック・金属の剛性&密度比較

一般的にプラスチックと金属の強さ・変形しにくさには大きな隔たりがあります。カーボン材は、プラスチックに炭素系材料を加えて強化し金属並みの強さ・変形しにくさを獲得した材料です。図はashby chartと呼ばれる、材料の性能によって分類された材料マップです。中央の青のグループがプラスチック(Polymers)で赤のグループが金属(Metals)、カーボン材は紫のグループの複合材料(Composites)のCFRPに分類されます。図の右に行くほど重く、上に行くほど変形しにくい材料です。この図から分かるように、カーボン材は金属と同じくらい変形しにくく、プラスチック並みに軽いということが分かります。

2.3DP vs 従来加工

次に、なじみ深い切削加工と3Dプリントを比較してみます。3Dプリントしたカーボン材と従来工法のアルミ材にとって得意不得意が出にくいパーツを作る際に、どのような違いが出るかを比較していきます。

今度はホームセンターでは買えない、加工が避けられない形状を選びます。構造設計の基本となる代表的な形状として、トラス構造を採用します。今回も比較対象は、長さ170mm, 高さ75mm, 厚さ10mm, 幅約3mmのトラス構造です。

今度は同じ寸法でそれぞれの工法のパーツを作成します。3Dプリントしたカーボントラス、切削したアルミトラスのどちらも21.7g, 45.9gと非常に軽量です。1でカーボンパイプはアルミパイプより太めでしたが、同一形状で比較すると重量差が顕著に出ますね。限られた空間で軽量化が必要な場合はカーボン材が有利になりそうです。

造形時間は、3Dプリントで04h24mです。アルミの削り出しよりは時間がかかりますが、内製であれ外注であれアルミ削り出しよりも手間時間は短そうです。時間の観点では、手間を重視するなら3Dプリント、出来上がりまでの時間を重視するなら状況によっては削り出しとなりそうです。3Dプリントのコストは1パーツあたり2964円ですので、加工の手間時間合計が2時間以上ならトータルコストで3Dプリントが有利、実費ではアルミが有利という関係は1のパイプと同じです。

変形しにくさを比較するために、それぞれ、10kgの荷重を上面に掛けてみましょう。すると、カーボントラスとアルミトラスはそれぞれ、0.3mm、0.1mm程度変形します。重量比の剛性を比較するとアルミトラスがカーボントラスの1.5倍ほど硬いです。一般的なプラスチックでは、見た目でも変形していることが分かる6mm以上の変形となるため、3Dプリントしたカーボンがプラスチックを圧倒して、金属に比肩する性能を発揮していることが分かるかと思います。

10kgの荷重に対してアルミトラスは0.1mmの変形
10kgの荷重に対してカーボントラスは0.3mmの変形
10kgの荷重に対してプラスチックトラスは6.8mmの変形

今回はトラス構造として最も単純な形状で比較しました。実際に設計・製作する場面では、数値解析や実験を重ねて何度か設計変更し、最終形状を決定することになるでしょう。その時、3Dプリンターは大きな価値を発揮します。例えば、設計変更が3回だったとして、その過程で発生する手間は切削の場合は、加工工程の設計や準備・加工など1回あたり数時間の手間がかかるため、場合によっては10時間以上の手間を要します。一方、3Dプリンターを使えば、加工手間自体は合計しても20分ほどで、業務外の時間を活用することもできます。業務における手間を考えた際の拘束時間は最低2営業日です。この拘束時間に加え、設計変更などの業務を最速でこなしたとしても現実的には合計8営業日はかかります。これに対して3Dプリンターでは合計の拘束時間は20分、設計変更の時間は同じだとしても約5営業日で完了することができるでしょう。

今回は非常に単純な形状でやっているため、この程度の差で済んでいますが、設計が複雑化する実際のアプリケーションではこの効果はさらに大きくなります。

実際に荷重を与えてみると、7.7kgの錘が乗っても見た目の変形はほとんどなく、計算結果と同様の結果が得られていることが分かります。

Point

〇3Dプリントの加工手間は数分

〇人件費を含めるとコストはアルミ切削と同等

〇プラスチックを大きく上回る、金属のアルミ並みの性能

〇アジャイルな開発サイクル

△実費で比較するとアルミ切削が安い

△耐熱などの特性は金属に劣る

Column2. カーボン材とは?

カーボン材というのは専門的に言えば何種類かあります。この記事での「カーボン材」は、繊維強化プラスチック(FRP)という材料を指して使っています。FRPは日本名の通り、強靭な繊維素材を内蔵することで性能を強化したプラスチックベースの複合材料です。性能の大部分を内蔵する繊維に頼っているため、内蔵する繊維の状態によって性能が変化します。特に重要なのが、繊維の向きです。3Dプリント登場前のFRPは、プリプレグ積層という製造法で作成するのが一般的でした。図のように繊維の方向が入れ子状になるよう積み重ねると、金属以上に軽くて強い材料となります。3Dプリントする場合、より複雑に繊維を配置することができ、例えば、2のカーボントラスでは図の青い線に沿って繊維が配置されることで強力なトラス構造を実現しています。

図1
図2

ここまでで前半は終了です!いかがでしたでしょうか?

3Dプリントでカーボン材が印刷できることを知らなかった人は、目からウロコの内容だったのではないでしょうか?今回の実験では、アルミ材相当の性能が出る3Dプリンターがコストや手間の面で見ても有効であることが分かりましたね。3Dプリントという製造手法は軽量化や材料ロスの低減に有利な手法として注目されています。後半では、これらの点に注目して、もう少し複雑な形状を作ってみようと思います。3Dプリントとカーボン材を使って試作開発する際のアルミ材との比較を通して、3Dプリントカーボン材の魅力を知っていただきたいと思います。次回もお楽しみに!

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