3Dプリンター選び方ガイド

仕事用でも、個人用でも、用途に合った3Dプリンターを選びたいところです。しかし、最適なものを選ぶのは難しいものです。後悔しないためには、検討時に「適切な着眼点を持つこと」が必要になります。

このガイドは、100種類以上もの3Dプリンターに触れてきた経験と、100,000時間以上もの3Dプリンティング経験に基づいて執筆いたしました。
「どんな点に注目すれば3Dプリンター選びに失敗しないのか?」という疑問に答えします。

今回はFDM/FFF方式を中心に焦点を当てますが、基本的な考え方は業務用やSLA式プリンターにも当てはまります。

目次

1.よくある誤解について

3Dプリンターについて調べ始めると、まず「造形サイズ」と「積層ピッチ」について考えなくてはなりません。そこで蔓延している誤解が、以下の二つです。

A. 造形サイズは大きければ大きいほど良い

B. 積層ピッチは小さければ小さいほど良い

まずはこの誤解から取り除いていきましょう。

1-2.「造形サイズ」について

個人および中小企業向け3Dプリンターの造形サイズは、「10 cm x 10 cm x 10 cm」~「30 cm x 30 cm x 30 cm」の間です。
これだけを見ると、「やはりビルドサイズ(造形可能なサイズ)が大きい方が、作れるものの幅は広がるので、より使いやすいのではないか」と考えてしまいそうです。

しかし、実際の使用において「造形可能なサイズが大きいこと」はあまり重要ではないのです。

できれば一気に大きなパーツを作りたい、と考えられるかもしれませんが、大きい造形ほど特有の問題が発生します。
まず、「そり」や「歪み」の増加、複雑なサポート構造の追加、寸法精度の低下といった悪影響を忘れてはなりません。同時に、大きな造形を行うと時間がかかります。造形に12時間以上もかかるようになれば、様々なリスクが伴います。例えば、フィラメント不足、途中でのマシンの不具合、電圧の変化などによるマシンの停止、などなど……(朝出社したら化物みたいな造形カスがプリンターの上にどっさり!)。
大きな造形サイズを持つマシンは、きちんとした精度を出すための設計が難しく、中々耐久性・汎用性のあるマシンが少ないもの現状です。

こうしたリスクを踏まえ、大きいものを作りたいのであれば、データを小さい構成パーツへと分割して造形することをおすすめします。一手間加工を加えた方が結果的にはより早く・安く・正確な、実際に作りたかったものに近い造形ができることは、よくある話です

また、ある程度のサイズであれば、ソフトウェア上での配置を斜めにしたり角度を付けるだけでも造形の許容体積をうまく上げることができます

こうした理由から、「いつか使うだろう」という考えで3Dプリンターを選ぶことを、私たちは推奨いたしません。

ビルドサイズのカテゴリー

① 小 (S) 10 cm x 10 cm x 10 cm

② 中 (M) 20 cm x 20 cm x 20 cm

③ 大 (L) 30 cm x 30 cm x 30 cm

z軸方向に長い事が多いのでx、y、zで同じ長さの3Dプリンターは少ないですが、この3つのカテゴリーで分けると、実機の選定を行いやすいです。

先述しました通り、足りないのがあと数センチ程度であれば、造形モデルを斜めに配置するだけでも解決できます。ですので、「ちょっとサイズが足りないかも」という程度であれば、無理に大きな造形サイズの3Dプリンターに変える必要はありません。サイズ以外の条件が十分にマッチした機種であれば、工夫で何とかできる場合が多いのです。

1-3.「積層ピッチ = クオリティー」は成り立つ?

実は、「積層ピッチ」とクオリティーは比例関係にありません。

3Dプリンターを購入する際に「この3Dプリンターは、何マイクロンでプリントできるのか?」という点を気にしすぎてしまう方がいらっしゃいますが、「積層ピッチ」については、以下のことを覚えておきましょう。

「積層ピッチ」は最終成果物のクオリティーの尺度ではない

クオリティーはx、y、zについての正確度と精度によるものです。3Dプリンターの名の通り、zのみに精度が高くてもxyに低ければ意味がありません。しばしば積層ピッチよりも、材料の良し悪し、スライス設定、プリンターの再現性といった要因の方がクオリティーに影響しているのです。

「積層ピッチ」はz軸を含む全ての寸法の正確度と精度の尺度ではない

一定の高さにプリントするように3Dプリンターを設定しても、その高さに誤差なくプリントされるわけではありません。その質は、機械の再現性やフィラメントの一貫性に左右されます。最高品質のフィラメントを使っていても、貧弱なフレームや粗悪なモーションコントロールの3Dプリンターでは良いものはできません。逆に、素晴らしいプリンターであっても、粗末なフィラメントからは一貫性のある成果物は得られません。

「積層ピッチ」は3Dプリンターのハードウェアまたはソフトウェアの品質の尺度ではない

非常に多くのメーカーは不誠実で、「小さい積層ピッチでプリントできる」と謳っています。技術的には可能な瞬間があるのかもしれませんが、そうでない結果になる事の方が多いのです。多くの3Dプリンターのブランドが「出来ないこと」を「出来る」と謳っている節があり、そのため、積層ピッチを購入の主要判断基準にする事はおすすめできません。

「積層ピッチ」は表面の粗さ(ツルツルさ)の尺度ではない

造形物の寸法精度を決定しないのと同様に、誤解を招きやすい意見の一つです。「積層ピッチが表面の粗さを決める」という考え方そのものには一理あるのですが、他の要因を無視はできません。先述の通り、結果的には積層ピッチよりも、プリンターの適切でないマテリアルの抽出度の方が表面の粗さに影響し、ものによってはフィニッシュに歴然の差が出てしまいます。

1-4.「積層ピッチ」を小さくする事はより強い結合するための方法ではない

以下のような、論外な噂話を耳にすることがあります。

「小さい積層ピッチは、フィラメント間の表面積の増大を意味する。表面積が多いほど次の層との接触部位が増える。接触部位が増えるほど、強い結合がされているパーツとなる。よって、小さい積層ピッチは強いパーツを生む

「接触表面積が増えると接合が多くなり、強い接合となる」という点は間違ってはいません。しかし、実際には層間結合部位がパーツにおいて最も脆い部位で、大きいピッチでプリントするほうが強い結合を生み出します。なぜでしょうか?

その理由は「内部体積 対 表面積比」が高いからで、小さいピッチの時よりも熱を保持しやすいためです。その為、敷かれた層が十分に熱を持つため、次層とうまく結合できるのです。

言い換えれば、小さい積層ピッチは熱を保持できない為に、異なるタイミングで層が固まり、造形物のコヒーレンス(一体性)が失われるのです。一つの固体として存在するのではなく、剥がされる付箋のようなイメージで層が完成してしまうので、材料本来のの性質を披露することなく、応力に負けてしまいます。

まとめると、小さいピッチにするとより多く層を重ねる必要があり、「デラミネーション効果」(層間剥離)を起こす確率を引き上げてしまします。

また、的確な温度、プリント速度、その他のエクストルーダー・プロファイル(抽出設定)を用いれば、接合の強さを向上させられます。これを頭の片隅には置いておきたいです。

……とはいっても、クオリティーに顕著な違いは、本当に出ないのでしょうか?

小さい積層ピッチは角度のある部位のプリント時には表面のクオリティーを確実に向上させます。しかし何をプリントするのかにもよりますが、小さい積層ピッチは、オーバーヒーティング、一続きでない不完全な材料抽出を誘発し、肉眼で見てもクオリティーが劣る造形結果を生んでしまう場合もあるのです。

2.3Dプリンター購入の際に考慮すべき機能

ヒーティッド・ベッド

多種の材料がプリントできるようになるので重要な機能です。「非常に安価なゴム・ライクなフィラメントのみでのプリント」などといった、特有の用途のみでしか使用しないのであれば問題はないのですが、そうでないのであれば、ヒーティッド・ベッドのないプリンターは絶対におすすめめできません。PLAなどのヒーティッド・ベッドなしでプリントできるような材料でさえも、使用したほうが成功率も上がり、うまくプリント出来ることが多いのです。

オート・キャリブレーション(ベッド自動調整)

非常に多くのカリブレーション方法があるのではっきりとは言い難いのですが、覚えておきたいのは以下のことです。

まず共通して、ノズルとビルド面が平行に近いほどよいプリントになります。

手動レベリングシステムを採用しているいくらかのプリンター(Ultimaker 2など)は、ビルドプレートの土台側のつまみねじを自身で回して調整する必要があります。このプロセスにはおおよそ10 ~15分かかります。経験の豊富なユーザーだと常にうまくキャリブレーションが出来るかもしれませんが、この方法だと『感覚』によるところが多く、ユーザーエラーを誘発してしまいます。しかし経験上、一度的確にキャリブレーションを行えば、物理的に動かしたり替えたりしない限り、そう頻繁に行うことはありません。

この種とは反対側のスペクトルに位置するのがCubicon Singleなどのプリンターになります。このビルドプレートはエクストルーダーと同期し、内蔵モーターによって、間隔を自動調整するだけなく傾きも調整します。どのプリンターと比較しても、群を抜いた一層目を抽出する理由になります。

以上の事から、結局オートキャリブレーション機能は必要なのでしょうか?日々のプリントにおいてキャリブレーションにそれほど時間が費やせないのであれば、よいキャリブレーションシステムを有するプリンターを購入する事をお勧めします。もし時間的な余裕と、慎重にキャリブレーションを行うことが出来るのであれば、絶対に不可欠というほどではありません。

LCD/LEDディスプレイ

この機能に関しては、オンボード・ディスプレイが『存在しないもの』から『基本的なもの』、『きらびやかな色のタッチスクリーンを搭載したもの』などと、オートキャリブレーションと同様個体差があります。

幅広い種類のディスプレイを使用したなか、簡易的なLEDディスプレイ搭載したものが勝手がいいです。それには2つの主要な理由があります

  1. 簡易的なオンボードの一時停止機能(pause)は大きなトラブルの回避をする事ができるだけでなく、異なる色の材料に変更したり、簡単にものを埋め込むことも可能にします。技術的にはGコードにて一時停止のコマンドを挿入する事はできますが、少々面倒で、なによりプリントが始まる前の段階で設定しなければなりません。
  2. 典型的にオンボードのディスプレイはプリンターに安定をもたらします。コンピューターで駆動させるというのは聞こえがいいのですが、例えば、ウィンドウズの自動アップデートでプリントが失敗した回数は両手では数え切れません。おっちょこちょいのように聞こえますが、毎日プリントしていると想像するよりよく起こります。

全機能搭載ディスプレイは見た目は素晴らしいかもしれませんが、今日のプリンターのケーパビリティーを考えるとそうそう必要ないかもしれません。ただ、オンボードのディスプレイさえないとなると、様々な便利で、使い勝手の良い機能をみすみす捨ててしまっているようなものです。

Wi-Fiプリント:

Wi-Fiプリントは最新のプリンターにはさらに一般的な機能となってきましたが、本当に便利なのでしょうか?

GコードをSDカードに移し、そのSDカードを3Dプリンターの差し込み口に挿入して、読み込むという方法が現在では一般的です。

Wi-Fiプリントのほうが簡易的なSDカードの方法より使い勝手がいいといった経験は一度もありません。大きな理由は、いまいまプリントは現場的な要素を含んでいるので、なんらかの形でプリンターに物理的に触れるということを必要とするからです。

小さいプリンター工場を準備する計画があるのであればWi-Fiプリンティング機能はそれぞれのプリンターを一元管理できて便利かもしれません。とはいっても、次のようなソフトウェアレベルで扱う事ができるのも事実です。

【要約】購入の際に考慮すべき機能

  • ヒーティッド・ベッド:非常に重要
  • オート・キャリブレーション:あるほうが好ましい
  • ディスプレイ:なしは非推奨。簡易なLEDディスプレイで十分良い
  • Wi-Fi対応:あまり重要ではない

3.気にかけるべき項目集

3Dプリンターを買う際には、どんな質問をするべきでしょうか?

3Dプリンター購入にあたって陥りがちな『大きな落とし穴』についてカバーしてきましたが、では、あなたにとって一番良い3Dプリンターを見つけるには、どのような質問をすれば良いのでしょうか?

「一番良い3Dプリンターの名前はなんなのか?」ではなく、「どのプリンターが私の用途に一番あったプリンターなのか?」です。なぜなら全てにおいて最高で、ベストな3Dプリンターなど存在しません。どの工具をひとつ取ってもそうですが、いちツールであって全ての作業に適しているわけではありません。用途別にベスト・クラスの製品があるといった意味合いです。『強度のある機能部品の作成』、『建築家としてモデルの作成』、『宝飾用でのディテールの出力』、『教育用に学校や病院への導入』といったように、それぞれ最適なプリンターが異なります。

とは言っても、いつも問うべき質問は存在するので、どんなものがあるかリストアップしてみましょう。

このプリンターは、私がプリントしたい素材(マテリアル)に対応しているか?

いくつかのプリンターは閉鎖的で、市場に出回っている素材ではプリントをさせないような工夫をし、自社素材をと使わせるということをしています。単純に、出力温度が十分でない等の能力的理由で特有の素材がプリントできないということもあります。

頑丈につくられているか?

重量があり、金属製のフレームが最適です。アクリル製のフレームは可愛らしいかもしれませんが、輸送費と材料費の削減ができ、ほぼマーケティングの策略であると言えるでしょう。

このプリンターはどのスライシング用ソフトウェアが使え、そのうち必要なものはどれか?

ソフトウェア選びはプリンターの選択のように重要です。量的に選択肢は減るものの、メーカーの粗悪なソフトウェアを使うのも避けたいところです。人気の高い選択肢の中にcura や simplify3d などがあります。簡単に紹介をすると、curaは無償の中では最高峰で、全体的にバランスがとれています。またsimplify3dは非常に柔軟性があって、プリントクオリティーも素晴らしいのですが、有償になります。また、Zortrax社のZ-suitなどは私有化されていている物の代表です。非常に優れたソフトウェアなのですが、Zortrax社のプリンターがないとアクセスできなくなっています。

このブランドは信頼のできるサポートとローカル・サービス(国内サービス)はあるか?

3Dプリンターは商用的に初期段階であるのでトラブルに遭遇するでしょう。いくらかのメーカーが宣伝するほど簡単に、スマートフォンを使う感覚ではうまくいかないでしょう。サービスが受けられ、ローカル・サービスが受けられるブランドを選ぶことが最適です。特に日本では海外との輸送のやり取りによって費用が簡単にかさんででしまいます。

マシーンについてではありませんが、最後に私たちがよく聞かれる質問がこれです。

Kickstarterなどのクラウドファンディング・プラットフォームなどから3Dプリンターを購入しても大丈夫ですか?

答えは『いいえ、Kickstarterから購入しないでください』です。というのも3Dプリンターでの成功率は非常に低いからです。たとえ商品としてデリバーされたとしても、期待に答えてくれるとは限りません。また気をつけたいのは、幾つかの3Dプリンターのキャンペーン自体が完全な詐欺であることです。

以上、このようなシンプルな問いかけを繰り返すことによって、落とし穴にはまることなく、自分が必要とするプリンターを確実に選ぶことができます。

その他、ご質問ございましたらお問い合わせくださいませ。

また3Dプリンターを利用した小規模的生産工場の立ち上げ援助など、より複雑なケースのご相談も承っております。